ケトン体が人類を救う

この題名の書籍が2015年11月20日に出た。出版されて数日で入手できたので、一気に読んだ。面白いこと、面白いこと!これほど面白い本を最近読んだことがなかった。著者は宗田哲男医師で、専門は産婦人科。本書の副題は「糖質制限でなぜ健康になるのか」とあるので、内容については想像できるであろう。学会での発表を制限され、ポスター発表だけが許されるという専門家からの非難・攻撃にさらされながら、本書を書くに至った経緯が面白い。医学の進歩を阻むのは、それなりの知識を持っている専門家であることが多い。ポーリングのビタミンCに関する知見も非難された。ホッファーのナイアシン(ビタミンB3)も学会の倫理委員会が不当な扱いをした。低血糖症も精神科領域で認められるようになるのに時間がかかった。フェリチンも最近やっと調べられるようになった。専門家である医師が、自分が蓄積した知識を変えようとしないことに問題がある。コレステロールについても、随分前から、「コレステロールの豊富な食べものが数値を上げるのではない。コレステロールは肝臓で作られる。」と言われていた。昨年の4月に厚生労働省がやっとこれまでの知見を変更し、摂取制限を撤廃した。しかし、まだコレステロールを改善する降下剤が処方されている人はかなりいる。この薬剤でうつ状態になり、自殺をしたと推測される事象も報告されている。ある期間、JR中央線で自殺した人の9割が55歳から60歳で、全員がコレステロール降下剤を飲んでいたと報告されている。

ケトン体についての宗田医師の知見によると、お腹の中にいる赤ちゃんのケトン体濃度は高い。赤ちゃんは生まれた直後でも、数週間経過してもケトン濃度が高いという。ケトン体の基準値は76以下であるのに、300~400と高濃度であることを宗田医師は確認している。一方胎児・新生児の血糖値は35mgと低い。宗田医師の研究によると、母体は高濃度(2000以上)のケトン体を製造して赤ちゃんに供給していることがわかってきた。人間にはブドウ糖によるエネルギー代謝と、ケトン体によるエネルギー代謝がある。不定愁訴を伴う低血糖症の治療では、これまで血糖値が急上昇する食べ物を避けて、少量頻回食が勧められてきたが、ケトン体エネルギーを使う方法なら、低血糖症の治療にも有効な知見なのだ。つまり糖質制限食なら血糖値の乱高下はなく、仮に血糖値が低値になっても、エネルギー不足にはならない。宗田医師は、糖質制限食を導入して以来、帝王切開も胎児を守るための誘発分娩も妊娠高血圧症候群も激減したと報告している。そして自らの糖尿病、高血圧症、高脂血症が治癒したと報告しているが、これまでの専門家の反応を見ている限り、これが受け入れられるようになるには、残念ながら何十年も経過するだろう。同様に選択理論が常識になるのにも時間はかかるだろう。

柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)

(日本選択理論心理学会、「ニュースレター」73号より)

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