2022年東京国際大会が、7月27日〜7月30日、開催されました。参加者は535人。オンラインと対面のハイブリッド方式でした。
当初東京開催がすんなり決まったわけではありません。2018年韓国で開催されたのがアジア開催の最初でした。このときはどこも主催国にならないなら、日本が開催国となりますと言っていましたが、韓国がどうしても開催したいということで、どうぞ、という事になりました。次が南米コロンビアでした。そして再度アジアに戻り日本での開催となりました。常任理事会で審議事項にあげられときに日本での開催に反対意見が出ました。「唐突」であるというのが反対理由でした。審議に登るものの多くは「唐突」ですが、国際大会については2016年「次はアジアか?」と皆さん考えていたので、「唐突」ではありませんでした。しかし、常任理事会で一人でも反対者がいれば開催をするのは無理と考えていました。常任理事の皆さんを対象にアンケート調査をして(調査も反対されましたが)、皆さんの意思を確認しました。そんな状況の中で、青木仁志理事が「学会が反対なら、NPOとアチーブメント社でやりませんか」と言われ、それも一案と考えるようになりました。この申し出がなかったら日本開催は頓挫していたでしょう。そのうち反対を表明していた理事も反対を撤回されて、学会、NPO、アチーブメント社の三者が協力して開催できました。
毎年開催される年次大会はどのようにして決まるのでしょう。引き受けるのは大変です。しかし、これまで、東京以外では大阪、滋賀、静岡、などで開催されています。関係者の皆さんは、そろそろ引き受けようかと実行委員長として取り組まれるのです。日本での最初の基礎講座開催は1986年でした。34年も経過しているのに開催国にならなかった大きな理由は、言語の問題がありました。運営のためには通訳が必要で、全体会に加え分科会にも通訳をつけるというのは大変な事です。費用もかかります。しかし、本間滋さんが通訳を手配してくださいました。そのほか、アチーブメントの社員さんたちが、本当によくやってくださいました。
もちろん他のボランティアの皆さんも関わってくださって、日本は大役を果たすことができました。参加してくださった方々、背後で労してくださった方々に心からの感謝を述べさせていただきます。ありがとうございました。
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
JACTP ニュースレター93号より
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カンナビノイド(CBD)への期待
飯塚浩・精神科医師は2022年4月に『小さな町の精神科の名医が教える メンタルを強くする食習慣』(アチーブメント出版)をまとめられた。精神科医師の立場の人がその著書でGFCFダイエットに触れられているのも珍しいことで、私が院生と一緒にまとめ『自閉症を含む軽度発達障害の子を持つ親のために』として出したのは2007年。低血糖症について書いたのが1982年。40年経過してもまだ情報は常識となっていない。そのような状況で、飯塚医師は最終章で「魔法の次世代万能薬!?CBDオイル」として紹介されている。CBDはカンナビノイドのことで、カンナビジオールとも呼ばれる。これから大いに注目されるものとなるであろう。
体の中にはECS(エンド・カンナビノイド・システム)という身体調整機能がある。このシステムに狂いが生じると、感情抑制ができなくなったり、思わぬところでコケたり、不眠症になったりする。ECSのEはEndogenousのことで内因性という意味である。私たちの体にはカンナビノイドが存在している。人間だけではない、脊椎動物は魚も含めこのシステムを持っている。そのシステムに起きている狂いを外部からCBDを取り込むことで調整する試みなのだ。うつ病と統合失調症は精神疾患とされており、共通点は、不眠症と言われる。CBDで不眠症が改善すれば、精神疾患にも有効であることが想像できる。リュウマチのような自己免疫疾患、免疫力が減少してかかるガンなどにも有効であろう。飯塚医師が「魔法万能薬」と呼ぶ理由がここにある。
CBDは大麻から抽出される。二つの成分に分けられ、THC(テトラヒドロカンナビノール)は違法薬物として日本では使用できない。そこでTHCを除去した残り全部を利用するブロードスペクトラムCBDを飯塚医師は好んで使用されている。症例として掲載されているものには、アスペルガー障害、感情失調、不眠、自閉症スペクトラム、過食、アルコール乱用、DV、うつ病、難治性てんかん、アルツハイマー型認知症、などが挙げられている。症例はまだ少ないが、ECSシステムに働きかけるものであるので、どのような不調にも対応するのではないか。そういう意味で「万能」と呼ばれるのであろう。
2018年にはCBDはドーピングの対象から外され、2020年国連は。CBDを食品であり医薬品ではないと表明。CBDを使いやすい環境は整ってきている。
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
(ニュースレター#92)
地球温暖化という不都合な真実
地球温暖化の背後にあるのは利権です。これは国際政治学者の藤井厳喜氏が指摘していることです。東京大学名誉教授渡辺正氏はそれを裏付ける資料を示して人を納得させる主張をされています。白熊は減っていない。地球の温度は人間が感じるほどの変化はない。NHKで何度も流される、氷が崩れ落ちる映像。これほど温暖化が進んでいるということを主張したいメッセージですが、氷は温暖化であのように崩落しない。温暖化が進めば、崩落しないで溶けるのです。
嘘を本当と思っていたことはいくつもあります。韓国の慰安婦は日本軍が強制的に連行したと言われてきました。それをほとんどの人が真実と思っていたこともありました。国連なども人権委員会などで日本はまだ謝罪していないと今でも糾弾姿勢です。検証に使われた書籍に吉田清治氏の書籍が挙げられていました。著者自身がこれは真実の記録ではなくフィクションですと告白しています。国連の委員会で、この書籍を参考文献から除外するように要請してもはねつけられました。朝日新聞はフィクション小説をもとに長きにわたって嘘を発信し続けました。最近ハーバード大学の教授が日本軍の強制連行という証拠はない、と発表。これまで韓国の大学教授が何人も同じことを言っては、職を解かれ大学から追われるということが起こってきました。
韓国は北にソ連、西に中国がいます。日本が関わらなかったら、ソ連や中国に支配されてしまう。そこで日本に支援を求めた結果が日本統治。日本はインフラ整備に多額のお金を使っています。同じように日本が統治した台湾は親日ですが、韓国は反日です。何が違いを作ったのか?それは教育です。韓国の教科書は反日思想で埋まっています。台湾の教科書に反日思想はありません。
台湾総統として台湾に仕えた李登輝は、「私は20歳までは日本人だった。」と誇りを持ち、日本精神を高く評価しています。李登輝があげるリーダーの資質は再考に値します。①信仰心を持つ、②権力に執着せずいつでも手放す用意がある、③公私の区別をする、④人の嫌がることを率先して行う、⑤誠実に対処する。李登輝はクリスチャンになりましたが、信仰を押し付けることなく、信仰心はさまざまあるとしています。自分以外の力が存在すると考えるか否かの違いは大きいということでしょう。それにしても嘘を見分ける力が欲しいものです。 柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
日本選択理論心理学会「ニュースレター91号」より
私の体はハイブリッド!
1970年代、脳細胞は血液の中のブドウ糖しかエネルギーにしないと考えられていた。私は1978年に米国より帰国して、メンタルヘルスと関係のある機能的低血糖症の存在についてことあるごとに話し、記事も書いていた。私は人間の体はガソリン車と思っていたが、実はハイブリッド車だったのだ。ガソリンと電気ならぬ、ブドウ糖とケトン体のハイブリッド!
9月30日に発行された佐藤拓巳著『脳の寿命を延ばす「脳エネルギー」革命―ブドウ糖神話の崩壊とケトン体の奇跡―』を読んだ。メアリー・ニューポート医師がアルツハイマー病にかかっていた夫に、ココナッツオイルを30g/日料理に加えたところ症状が改善したと報告していることはよく知られている。ケトン体は血液脳関門を自由に通過できる。そしてニューロンのミトコンドリアに直接作用する。それも即効的に。認知能力の改善は驚くほどだ。ヒト胎児はケトン体エネルギー代謝60%と分かってきた。以前紹介した宗田哲夫医師の知見によると新生児も母親もケトン体濃度がとても高いのだ。
佐藤拓巳氏の著書に掲載されている母と娘の体験談も圧巻である。娘さんは1歳の誕生日まですこぶる健康だった。そして誕生日の前日に高熱を出して、やがて病院に行く、薬を飲む、の繰り返えしとなり、5歳の時にてんかんと診断された。難治性てんかんは薬が効かない。全世界で2,400万人の患者がいると言われている。娘を助けたい一心であちこちの専門医を訪れ、書籍や論文を読んで、ケトン体に行き着いた。もちろん宗田哲男医師の『ケトン体は人類を救う』も読んだ。
手記を書いたKMさんは誰も辿ったことがない道を彷徨いながら、自らケトン食レシピをまとめたりされている。彼女は、これまでの多くの医師たちがなぜ大切な食事や栄養のことを話してくれなかったかと呟いている。医師になるための医学部の学びで、役に立つのは20%で、80%は学び直さないと役立たない、と言われている。何かあれば患者を怒鳴りつける医師もいるので、医学部での学びは刷新されなければならない。ケトン体は今でも多くの医師によって悪者にされているが、そろそろ学び直そうではないか。ところでNHKが糖質制限食は短命であったと放映したが、エビデンスの低いレベルの研究だった。それより高いレベルの研究は違う結論を出している。(江部康二医師のブログ参照)
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
JACTPニュースレター90号
新刊書グラッサー著『クォリティスクール・ティーチャー』
原書名をそのままカタカナにした訳本です。本書の姉妹書となるのが1994年に和訳された『クォリティ・スクール』(サイマル出版会、原書1990)です。27年前に書かれた訳者あとがきを読んでみました。そこでは、デミングの14ポインツに触れ、それをグラッサーは3つにまとめていると書かれています。
① 上質に焦点を合わせる。
② 強制によって上質は生まれない。
③ 他の人を人前で評価してはならない。
デミングの14ポインツは以上の3項目に集約されました。日本であまり知られていないデミングの14ポインツを教育現場で生かすときにこの3項目を最重要視しています。今回2021年6月21日発売予定の『クォリティスクール・ティーチャー』は、原書が1993年に書かれていますが、コントロール理論として紹介されていたものを、選択理論と改名したため改訂版が出たのが1998年でした。この同じ年に、グラッサーはマザーブックと言われている『選択理論』を書き上げています。今回の訳本はこの改訂版に基づいています。日本語版の副題は「生徒の心をつかみ、教育に変革を求める教育者のための実践書」となっています。
今は解散している「クォリティスクール協議会」を日本で組織するとしたら次のようなことが考えられます。
・第一段階:教師が『クォリティスクール』や『クォリティスクール・ティーチャー』を読み、話し合ってクォリティスクールを目指すことに同意できるかを確認する。同意されれば協議会へ申請して、決意表明とする。
・第二段階:認定NPO日本リアリティセラピー協会が主催する集中講座(世界共通)を受講し、教育現場での実践を試みる。
・第三段階:生徒に選択理論を学んでもらい、家で自分が学んだものを家族に分かち合う。こうして生徒も家族も選択理論を学習して家族の人間関係が向上する。(以上の3つ段階は時系列でなく混在しながら進められる。)
・第四段階:クォリティスクールの6基準を満たしているか自己評価し、満たしていると確信すれば、協議会にクォリティスクールの宣言を申請する。
新刊書がこのような発展の起爆剤となることを期待しながら、、、
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
日本選択理論真理学会 ニュースレター89号より
大杖規子さん逝く
大杖規子(おおつえのりこ)さんが亡くなられた。2021年1月3日のことだった。まだ56歳。早逝と言うしかなく、燃え尽きて逝かれた。最初の入院は4月で、このとき胃がんのステージ4であったと聞く。治療のために定期的に入院されていたようである。2020年12月11日に退院されて翌日12日〜13日は基礎プラクティカムをオンラインで担当されている。そして年末に緊急搬送され、数日で亡くなられた。このような状況でありながら自分の容体を人に語ることはなかった。私も12月5日にはご本人とズームを使った打ち合わせをしていたので、まさかその月の末に緊急搬送は予想する術もなかった。お痩せになってはいたがやつれたという印象はなかった。お綺麗だった。
大杖規子さんは常任理事で研修委員長であった。昨年8月に予定されていた年次大会が延期されたので、研修委員会として9月6日には大会で予定されていたオンライン研修を企画実施され、今年の2月23日には大阪で、4月17日には平塚で研修の段取りがなされていた。いずれもオンラインとなるであろう。
大杖規子氏は、ご自身がプラクティカム・スーパーヴァイザーになられたので(2017年)、担当された数は多く、関わられた受講生の数は31人と多い。今回この原稿を書くにあたって、ご長女の瑞希(みずき)さんに時間をとっていただいた。母親が講座の受講(2012年基礎、2014年上級)後にどのように変わったかなど、興味が尽きなかった。誰にでも言えることであるが、講座で選択理論を学習すると致命的習慣を使うことはなくなる。娘から見る母親は、愛と貢献の人であり、支援的であった。そして「選択理論を伝えるのが生きがい」と口にされていたと聞く。瑞希さんはこの母親の志を自分が継いで選択理論を広めたいと言われている。
大杖規子氏はいたって健康で、病とは縁遠いとも思われていた。あるとき彼女の指に触れたときとても体温が高いことに気づき、それを口にすると基礎体温が高いと自認された。まず癌にはならないだろうと思っていたが、まさにその癌にかかられた。それもスキルス!お元気だったので、健康診断を受けることはなかったようである。ピロリ菌の検査もされていなかったらしい。癌との関係が判明してきているので、検査をすることを瑞希さんにもお勧めしておいた。ピロリ菌を発見した人はノーベル賞を受賞している。私も随分前であるが除菌をした。そうしなかったら私も今はいなかっただろう。柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
JACTP Newsletter #88
グラッサーからの書簡(2006年)
統合失調症の男性患者が肺炎を患い高熱を出して、内科病棟に移された。肺炎の治療を終えて精神科病棟に戻ってしばらくしてから、内科病棟では何らの精神科症状も出なかったのに精神科病棟に戻って来たら、また「背中に猿がいる」と症状を訴えた。これを知って、私はグラッサーに手紙を書いた。その患者はアラキドン酸不足であったが、高熱を出したときに不足していたアラキドン酸が出て来て症状が消えたのではないか?以下がグラッサーの返事である。
「アラキドン酸については何も言えない。それはとても重要なものかもしれないが、私はその名前を聞いたこともない。その患者は肺炎という大変な病気になって高熱を出して、内科病棟では正常だった。私が受け入れる精神病は、神経科医が脳に異変があるとするもので、DSM-IVにリストされている精神病には、脳に器質異常が見られないので除外される。私は、精神科医が診断する統合失調症を精神病であると教えていない。あなたが指摘するように、アラキドン酸が関与してその患者は正常になった可能性がある。しかしこれは脳に問題があったということにはならない。私は50年前にその患者に出会ったのだが、もっと技術に長けていたら効果的な対処ができたと思う。その患者はとても孤独な人だった。この孤独から幻覚が出るようになった。関わる人がいなくて、基本的欲求が満たされない状態で、創造的になった。創造性は選択理論の4番目の要素だ。彼が肺炎だったので、内科の医療関係者が彼のお世話をしっかりした。そのお陰で彼は快復した。私はそのとき、これをしっかり理解していなかった。今なら、彼と温かい人間関係を確立できたと思う。ハリントン医師のもとで共に働いたとき、このような患者と友好的な関係を築き、私の関わりは成功していた。こうした人々が基本的欲求を満たす方法を学べば、創造的にならずにすみ、精神病と呼ばれなくなる。『メンタルヘルスー心の健康の保ち方―』を最近25,000冊印刷したので、欲しかったらリンダに連絡されたい。人が基本的欲求を満たすことができるようになれば、メンタルヘルスは改善する。これを日本でもしっかり教えて欲しい。あなたの指摘したようにアラキドン酸が患者の正常になる助けになったという考えを楽しく読ませてもらった。間違っているとは言えない。私は精神疾患を持つ人に選択理論を学んでもらって成果を上げている。手紙をありがとう。 Bill Glasser, M.D.」(原文は要約されている。)。
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
JACTP News Letter #87
情報の正しさを見分ける力
「フェイク・ニュース」という言葉をよく耳にする。ネットに誰でもアクセスできる世の中になると、間違った情報が巷に溢れていることを知っていないと混乱する。溢れている情報の真偽を見極める力を我々は持っているだろうか。人の噂話も科学的情報も歴史的研究もそうだ。
米国議会ではロシアゲート疑惑でトランプ大統領が弾劾される可能性もあったが、弾劾されずに終わった。そして今やオバマゲート疑惑が出現している。FBIは正しいことを行うと考えられているが、政権中枢部から追われた大統領補佐官フリンは自宅を売ってでも弁護士費用を工面して戦ってきた。大統領が交代する直前FBI長官コミーにオバマ大統領が言ったことが補佐官スーザン・ライスのメール(忘備録)に残っていて明らかにされた。これから米国司法省がどのような情報を提供するだろうか。議会が動いて元米国大統領が証言を求められる可能性が出てきた。
慰安婦問題、徴用工問題、南京虐殺問題等々、悪意によって真実がゆがめられて、世界にねじ曲げられた情報が流布している。今回の武漢ウイルスに関するWHO事務局長の発言を聞いていると中国の出先機関の発言のように聞こえる。中国の反対によりWHOの総会に台湾はオブザーバーとして参加が認められなかった。
アルツハイマー協会*という英語のサイトがある。そこに「脳を大切にする十の方法」と書かれている。食事については、「健康でバランスのとれた食事とは、脂肪を少なくし、野菜・果物を多く摂る」と書かれている。これまでの知識で考えると良いことが書かれているように思われる。これに対してパールマター(David Perlmutter)医師は、「ええっ!」「必要なのは脂肪をもっと摂ること、そして炭水化物を少なくすること」でしょう!そして研究成果を紹介している。高齢者の認知機能を調べてみると、炭水化物の摂取が多いグループでは認知機能の低下を示す人が多い(90%)。一方、脂肪を多く摂取しているグループでは認知機能の低下が少ない(44%)ことを示していた。つまり脂肪を摂らない人ほど認知機能の低下が見られるというのだ。食事についての知識は刷新されなければならない。*https://alz.org/help-support/brain_health/10_ways_to_love_your_brain
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
JACTP News Letter 86号
「イラッ」とするは随意行動
この記事を見て、天秤が傾く人がいると思います。これまで「イラッ」とするのは不随意行動と思っていた人です。随意行動は自分の意のままにコントロールできるものです。不随意行動は自分が意のままにコントロールできない行動を指しています。天秤が傾くときの表現として「イラッ」を使っているのでしょうが、あまりにも速く出てくるので自分が選んでいるとは思えないのでしょう。
この「イラッ」とするという表現は英語ではなんというのだろうと浜田富美子さんに聞いてみました。「私なら」という前置きで「annoyed, irritated, agitated」などを使うかな、ということでした。英語の表現は選択した行動を示唆しています。イライラを選択した人は、「イラッ」としたという表現を使っていますが、この「イラッ」は自分の意のままになる随意行動です。不随意行動とするなら「ウッ」という表現が当たっているのではないでしょうか。イライラを選択した人はイライラするような考え方をしています。そして自分の考えは自分の選択とするならイライラも自分が選んだ行動です。
行動は自分の選択だとわかると自分に責任があると感じます。自分が望むようなことを相手がしてくれないと、私たちのうちに「人を変えたい」という思いがあるので、イライラを選択してしまいます。しかし、「相手が変わるかどうかは相手が決めること」、「相手を変えることはできない」と理解している人はあまり「イライラ」を選択しないでしょう。子どもが泣いているのは自分の得たいものと、いま手にしているものの差が大きいからでしょう。行動のシステムには「泣く」という行動が入っています。親のすることは泣くのを止めなさいではなく、「泣きたくなることあるよね」「でも泣くなら廊下で泣いてね」「泣くのを止めたら部屋に入ってきていいよ」と接することでしょうか。泣くのは自分の選択だと早い段階で知った子どもの成長は楽しみですね。
グラッサーは自分が選択していない行動は「くしゃみ」くらいかな、と言われたことがあります。他のほとんどは自分の選択です。ただ鼻の中にティッシュで作ったコヨリを入れたらクシャミも自分の選択した行動となるでしょう。コヨリを使いながら「クシャミは自分の選択ではない」とは言えないですね。コヨリを使うのを止めれば、不快な行動は少なくなるでしょう。
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
JACTP News Letter 85号
発達障害に有効な取り組み
「男はみんな発達障害」。出村栄子氏はそう言った。彼女は薄々そう感じていたのであるが、柿谷正期は例外で、そうでないと思っていたのだろう。ところが妻を亡くした柿谷正期と結婚して確信を強めたようだ。「男はみんな」ということに自信を持っている。
わたしが大学で教えていた頃、ゼミ生として関わった院生を含め、何人かの臨床心理士との交流が今でも続いている。瀬田氏、馬場氏、佐藤氏らがその中にいる。瀬田氏も馬場氏もわたしも発達障害と自認する。佐藤真司氏は「テンネン」と呼ばれ愛されていたが、テンネンよりは皆と同じ「発達障害」が良いとのことで、数年前晴れて私たちの仲間入りをして「発達障害」となった。私たちは書籍も著した。『自閉症を含む軽度発達障害の子を持つ親のために』は視覚の問題、軽度三角頭蓋、GFCFダイエット、腸管浸漏症候群、抗生物質の問題、化学物質過敏症、原始反射、等々。2007年出版の当時は臨床心理学の関係者が眉をひそめた。ネットでは叩く人もいた。同じ路線で私のゼミ生・浅井夕佳里氏は『発達障害“改善”ステップ』を2016年に出版し、成果を出している。
先月出版された『薬に頼らずこどもの多動・学習障害をなくす方法』(藤川徳美著、アチーブメント出版)は、栄養の修正をして改善した治療例を多く紹介している。藤川医師はうつ病は鉄と蛋白不足に対処することで解消し、薬の離脱ができると主張し、完治した例をたくさん挙げている。同じ医師が発達障害も同じように治療できると主張しているのだ。
最近腸内細菌が注目されている。セロトニンがどこで造られているかについて「腸」で造られると考えるようになってきた。「脳腸相関」という言葉を使って「腸」の働きの重要性を説く人もいる。昔は血液検査でフェリチンを測ることもなかった。先日36ngあるので、貧血ではないと言われたという人がいた。基準値の設定が18.6~261ngなので、そう言われたのであろう。しかし100ngは欲しいと欧米基準値を採用している専門家もいる。基準値はどのようにして決まるのか。自覚症状のない健康な人のフェリチン値を図ってグラフにして低い数値と高い数値を外して95%の人の数値が基準となる。仮に健康と思っていても貧血気味の人を集めれば基準値は低くなる。精神疾患もそうであるが、発達障害にも栄養療法は有効である。
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
JACTP News Letter 84号
クォリティの条件と特徴
グラッサーの書籍にクォリティの条件がリストされています。どの書籍でしょう?答えは年次大会で明かすことにしますが、クォリティの条件としてグラッサーは6つ挙げています。分割できる要素があるので、2つ分割してワークブックでは8つにしています。グラッサーは「条件」としていますが、ワークブックでは「条件と特徴」としています。現時点のクォリティはいつでも改善できるという特徴があると考えたからです。
温かい人間関係を構築するためには「強制」があっては難しいので、グラッサーも強制のない関係を上質の条件として条件1に含めています。条件の一つとして「自己評価」が挙げられていますが、「改善」できる要素を示唆します。こうして6つが8つになりました。クォリティの条件と特徴は、1) 温かい人間関係から生まれる、2) 強制からは生まれない、3) 自己評価から生まれる、4) 有益、5) 最善、6) 改善できる、7) 気分が良い、8) 破壊的でない、の8つです。
デミングは、「クォリティは定義できないが、見ればわかる」と言いました。しかしグラッサーは基本的欲求と結びつけて考察します。赤ちゃんが布のおむつをしていると、排泄をした時の濡れたおむつの感覚は不快と感じるでしょう。そしてすぐに母親や父親が乾いたおむつと交換してくれた時のすっきり感は嬉しいものです。布のおむつの良さはここにあります。紙おむつでは感じられないものでしょう。自分の快適感に貢献してくれる親は上質世界にバッチリ貼られます。気分の良さを感じることがベースとなり、赤ちゃんは他の欲求を満たすようになります。赤ちゃんはクォリティが何かを早い段階で体験しているのです。おっぱいを飲ませてもらった時の満足感も同じです。飲ませてくれた母親への思いは当然強くなります。
クォリティにつながる言葉はいくつもあります。生活の質、上質、質が高い、ハイレベル、品質が良い、関係の質、ハッとする絵画、興味深い写真、調和のとれた風景や庭園、などです。そして関係者全員の意識がクォリティに向けられるときに「クォリティスクール」が誕生するのでしょう。日々の生活でもっともっとクォリティについて考え、クォリティに注目するようにしたいものです。子育てをしている親は、もっとクォリティに触れる機会を子どもに与えたいものです。
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
JACTPニュースレタ−83号より
認知症予防のために
自動車運転免許の更新をすることになった。75歳以上になると、認知機能検査が入る。視野検査、実車検査などを済ませ、検査結果を持って警察署に行き、書類を提出して視力検査の順番が来た。補聴器を付けていますか?外してください、と言われ、生年月日を言ってください、が聞こえれば合格。それから視力検査。無事合格。
今回の更新で初めて認知症検査を受けた。日本での認知症発症者は65歳以上で5人にひとりになると言われている。予防に必要な要素は、運動、食生活、社会参加の三つと言われる。近頃David Perlmutter医師の発信された情報を入手した。この方は早くからグルテンフリーを唱え、惜しげもなく情報を提供されている。食事に関する九箇条。
1. 良質な油を摂る。ココナッツオイルで夫の認知症が改善したとニューポート女医は述べている。それも4時間で違いが出たという。オメガ6(サラダ油、ゴマ油)はそれなりに摂れているので、オメガ3(亜麻仁油、エゴマ油、青魚)やオメガ9(オリーブ油)が推奨される。サバ缶の利用などは良い。
2. ナッツを食べる。クルミ、かぼちゃの種、アーモンド、ピスタチオ、等。
3. 養殖でない天然魚を食べる。
4. イチゴを食べる。
5. 発酵食品を食べる。納豆、漬物、等。
6. 葉物野菜を摂る。10数種類の野菜を長時間煮込んだ野菜スープや野菜のスムージー、野菜サラダなどを食べると良い。
7. アボカドを食べる。
8. 卵を食べる。コレステロールを心配して卵を勧めない医師は遅れている。コレステロールの数値は診断基準から外された。心配無用。
9. ターメリックを摂る。クルクミンが摂れるので良い。
出来ることから取り組むとしたら、糖質制限をして糖エネルギー代謝からケトンエネルギー代謝に変えるとよい。関心のある人は江部康二医師のブログを読まれると良い。読者の質問に丁寧に答えられている。
http://koujiebe.blog95.fc2.com
柿谷正期(日本選択理論心理学会ニュースレター82号より)
つながりの大切さ
地震や洪水などの被災地に住む友人と電話が繋がり安否を確認でき、ホッとする経験をした人は多いことだろう。電話が各家庭になかった時代を過ごした人々にとって、つながりに携帯やインターネットが使われる時代は想像もできなかった変化である。つながり方はいろいろあるが、医療現場でも治療を受けている人にどのような繋がりがあるか、その重要性が認識されてきている。 人とのつながりがある人とない人を比べると、健康寿命に違いがある。当然孤独な人よりもつながっている人の方が健康寿命は長い。54歳以上の人が配偶者をなくした場合、死亡率はそうでない人と比べて4倍、7倍、10倍も高いという研究結果を読んだこともある。高齢者になると新しいつながりは構築し難く、これまでのつながりも減少して行く。日本の少子高齢化は一層拍車をかけると思われる。 先日10年前に大学を卒業して社会人になっている元ゼミ生が二人で訪ねてきてくれた。昔、肺炎を患い入院していたときも、彼らが大勢で見舞いに来てくれたことを思い出した。お見舞いに来てくれる人がいると、死亡率は下がるという研究結果も知られている。6ヶ月以内で見ると心筋梗塞で入院している患者でお見舞いに来る人が2人以上いる人と、そうでない人との死亡率は26%と70%と大きな差がある。つながりのある人の健康寿命は長い。以前読んだものであるが、3つ以上の組織に属している人は認知症になる確率は、そうでない人と比べて低いようだ。私は教会とのつながりは58年、大磯ライオンズクラブの会員になって32年、日本選択理論心理学会とNPO日本リアリティセラピー協会は創立以来で30年以上。組織との関わりも大事にしたい。 グラッサー博士は私たちの組織がこれからも繁栄を続けるためには、メンタルヘルスに焦点を合わせる必要があると言われていた。メンタルヘルスの問題点は、まさに重要な人との人間関係が損なわれているか、重要な人間関係が欠損しているかにかかっている。良いつながりがある人のメンタルヘルスはそうでない人と比べても良好である。学会もNPOも良い人間関係を維持するために自分は何をするべきか、と自己評価をする会員によって支えられている。意見の違いを乗り越えてお互いが和合して共に成長する姿は美しい。これからもそうでありたい。 柿谷正期(日本選択理論心理学会のニュースレター81号より)
腸内細菌と精神の不調
自閉症の子どもたちの腸内細菌の構成には特定のパターンがある。Brain Maker(『腸の力であなたは変わる』三笠書房、2016)の著者David Perlmutterはそのように言う。この英文の書名は、脳を創っているのは腸であることを示唆している。脳が腸に指令を出しているというよりも、腸が脳に指令を出しているという主張なのだ。腸の働きを維持するのは腸内細菌である。10% Human(Alanna Collen著『あなたの体は9割が細菌』河出書房新社、2016) は、もっとはっきりと人間は常在菌、腸内細菌などでできていて、細菌なしでは生きられない、ということを示唆している。わずか1割が人間であると主張している。2007年『自閉症を含む軽度発達障害の子を持つ親のために』(柿谷正期監修)が出た頃は、まだまだGFCF(グルテンとカゼインを除去する)ダイエットは知られていなかった。柿谷カウンセリングセンターのHPに情報を掲載したのが、2000年。今は、自閉症に共通している腸内細菌の構成には共通したパターンがあることがわかっている。自閉症だけではなく、うつ病、ADHDなども腸内細菌に影響されることが判明している。多くの自閉症児は抗生物質に触れてきた。妊娠期間に母親が抗生物質を使い、また子ども自身が中耳炎などで抗生物質を投与されたことがあり、そのため腸内細菌のバランスが崩れてしまっている。
前田浩著『最強の野菜スープ』、藤田紘一郎著『腸内細菌を味方につける30の方法』などは、簡単な方法で体調改善ができることを示している。ウオーキングも腸内細菌を味方にするひとつの方法だ。同じものを食べても健康になる人と具合の悪くなる人がいる。この違いは腸内細菌の違いだ。森美智代さんは難病にかかり、断食、復食を繰り返すうちに、青汁以外のものを食べると下痢をする状態になった。好き好んで青汁1杯を選んでいるのではない。それ以外のものを受け付けなくなったのだ。牛は草を食べて肉を造っている。彼女の腸内細菌が牛に似ているので、肉や魚を食べなくても彼女は生き延びている。同じ難病にかかった人は亡くなっている。森美智代さんは、『食べること、やめました』を出版したときで既に13年も経過しているので、今では23年の経過だ。腸内細菌が必要なタンパク質を造ってくれているのだ。私は野菜スープを今は毎日のように食べているが、髪の毛が白から黒に変わってきている。腸内細菌、恐るべし。 柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
(日本選択理論心理学会、ニュースレター80号より)
叱るって必要ですか?
昨年(2017)の12月愛媛県松山市で講演会が企画された。テーマは素敵な人間関係と周知されていたが、司会者から講演タイトルはどうされますか、と直前に聞かれた。そして急遽「叱るって必要ですか?」にしてもらった。講演会は付録で、午後のロールプレイ研修が主目的となる研修会だった。初めての人も招けるように講演会が企画され、午後はロールプレイ、質疑応答というのが、岡山、京都での1日研修を先例とした企画だった。
我が家の三男が小学校に上がったとき、担任教師はベテランの女性教師だった。「私は怒っているのではなく、叱っているのです。」と怒ることと叱ることを区別されていた。叱ることは教育者がしなければならないこと、良い教師は生徒を叱ることができる人、というのが多くの教師の考えだ。
あるときこのクラスで生徒に教師が聞いた。「みなさん、先生の得意なことを知っていますか?」一人の男子生徒がボソッと言った。「オコル(怒る)コト」。叱っている人は、「怒る」、「叱る」の区別をしていると主張しても、生徒には「怒る」としか伝わっていない。非行少年が「親父に叱ってもらいたかった。」と言って、ハラハラと涙を流すシーンがあるが、そのとき父親が叱る行為をしていたら殺傷事件になっていた可能性がある。少年の語彙不足で使った言葉の真の意味は、叱られることではなく「もっと関わって欲しかった。」ということであろう。
忙しい出勤前の朝、子どもが指で背広をツンツンと突ついていた。「お前何してる?」子どもは「お父さんの洗濯代を高くする攻撃!」と答えた。この父親は子どもを叱った。「叱るときには叱らなければならぬ。」と。しかし、子どもの背後にあるメッセージは、「お父さん、最近遊んでくれていないけど、、、」と言わんとしていたのかもしれない。もし、そうであるなら、「唾を背広につけることはいいことかい、悪いことかい」と自己評価を促して、「止めてくれる?」で済むかもしれない。そして、「最近君と遊べる時間が取れなくてご免な。土曜日はお父さん家にいるから、遊ぼうか?」と対応することもできる。「叱るって本当に必要だろうか?」担任教師と副担任教師に叱られて生徒が自殺したという新聞記事を見ながらつぶやいた。
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
日本選択理論心理学会(JACTP)ニュースレター79号より
自己評価の適用
私が大学教員であった頃、試験をするときに、自己評価を如何に評価システムに取り入れるかを模索した。記述式試験問題の回答欄の下に、自己評価欄を設け、出席、課題、グループ発表、読書レポート、試験、という幾つかの項目に対して、学生にA,B,C,Dの評価をつけてもらった。数字にすれば、4,3,2,1。自己評価を促す項目数は教科によって違うこともあるが、それらにはウェイトをつけた。出席20%、読書レポート30%、グループ発表20%、試験30%、というような具合だ。そして3.6~4.0をAとする。Bは2.6~3.5というような表を作っておき、事務室に提出するものは点数だけで、学生に通知されるのは点数ではなく判定(AかBかC,Dか)だった。「あのクラスでAをもらった」、「Bだった」というようなことになる。もう少しでAになるという状況では、学生のメーアドレスに「現状はB判定です。関連する何かを読んで提出することでA判定にすることも可能です。期限は◯月◯日14時、提出先は柿谷研究室です。」と配信する。「これを高校生の時からしてもらっていたら、、、」と感想を述べた学生もいた。自己評価を促される機会が少なかったということであろう。
先日日本カウンセリング学会の年次大会に参加して気づいたことは、自己評価の概念があまり出てこなかった、ということだった。「自己理解」、「洞察」の中に自己評価は含まれるようであるが、洞察で行動は必ずしも変わらないことがある。選択理論を用いたカウンセリングであるリアリティセラピーでは、自己評価を促すことはカウンセリングの要である。
「幸福な人は常に自分を評価している。一方、不幸な人は常に他人を評価している。」これはグラッサーの名言である。自分を評価するという自己評価こそが行動変容をもたらすものである。クォリティ(上質)は自己評価の積み重ねで生まれる。デミングの影響を受けた日本人は、早くから「上質」なものを作るのが一番安くつくと学んでいた。恐れのない環境で自己評価を繰り返しながら「上質」は育まれてきた。そしてMade in Japanの名声が世界に轟いた。産業界で成功するなら、教育界で成功しないはずはないと、グラッサーは教育改革に取り組んだ。結果を出すためには、子育てで、教育現場で、職場で、もっと自己評価の意義を理解し、実践する必要がありそうだ。 柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
日本選択理論心理学会ニュースレター第78号より
甲状腺機能低下症
精神科医師ニューボルドは、自らが低血糖症だと分かってから、自分がこれまで診た患者の中に同じような症状を訴えている人がいたと気づき、治療方法が変わったと告白していた。彼はまず低血糖症と甲状腺異常があるかの検査をする、と著書で述べていた。低血糖症のことはいろいろ書いてきたので、随分知られてきたという印象を得ているが、甲状腺機能の異常については、ここ40年近く気になっていた。恐らく甲状腺機能低下症の問題を抱えている人の多くが、精神科に行けばうつ病診断を受けるであろう。
最近になってRobert Thompson医師の著書The Calcium Lie IIを読んでわかったことがある。彼によると彼が絶大な信頼を寄せているTrace Elements, Inc.の毛髪分析を活用して、Ca(カルシューム)/K(カリューム)をはじめ7つの比を重視する。Ca/Kの比が4.2を超えていて、かつ基礎体温(朝起きがけの体温)が36.5℃以下であれば、甲状腺機能低下症の疑いがあるという。血液検査でTSH, FT3、FT4を検査すれば、TSHが高値であることが多い。日本ではTSHの参考値が0.390〜4.01となっているが、アメリカ内分泌学会は2011年に上限を3.0にすることを決定している。しかし、Thompson医師は、参考値は0.1〜1.0であるべきだと主張する。TSHの値が2.5である妊婦は、30%流産の危険が増すとしている。1.0増すごとに15%危険率が増すので、4.5の人は60%危険率が増大することになる。こうしたことは日本ではあまり知られていない。Thompson医師によると、甲状腺機能低下症には5種類あり、タイプ1〜5と分類している。タイプ1はホルモン補充が必要となるようだ。
Ca/Mg(マグネシューム)比は3.00〜11.00であるべきであるが、Caが多くてMgが少ないと、細胞の電気的機能が崩れて、細胞がMgを求めて副腎機能を抑えてMgをもっと要求し、結果としてNaとKが尿から排泄される。Na(ナトリューム)とKは胃酸産生には不可欠なので、消化に問題が起こり、たんぱく質を消化できずにアミノ酸を活用できなくなる。こうして神経伝達物質の産生が困難になる。このように甲状腺機能低下症とメンタルヘルスには大きな関係があることがわかる。
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
日本選択理論心理学会 ニュースレター77号より
過去に悩む人へ
グラッサー博士は、講演を聴いた人や、読者から手紙をたくさん受け取った。その多くは、感謝と質問の手紙だった。そのやりとりがそっくり箱に入って保存されていたという。途中からインターネットを使ったメールのやりとりになるが、事務局のリンダ・ハーシュマンさんがそのやりとりをも保管していた。私もたくさんの手紙を受け取り、メールでの質問を受けたが、そのやりとりは保存されていない。精神障害者のグループホームとして建てた大磯ハウスを、継承者がいないことを大きな理由として手放すことにした。書斎に手紙がたくさん保管されていたが、それへの回答は手元にはない。今回潔くシュレッダーにかけ、あるいは溶解処分にしている。グラッサー博士の回答が残っているということは、コピーをいちいち取っていたということで、亡くなったリンダさんの取り組みはすごいものだったのだ。ただただ感嘆するばかりだ。
この度、それが本になって出版された。『Thoughtful Answers to Timeless Questions』という題名の書籍だ。12章に分かれており、交際、結婚、育児、教育、依存症、犯罪矯正、軍、職場などが取り扱われている。その中で2005年のやりとりがある。過去に関するやりとりだ。過去の性的虐待、PTSD、悲嘆・喪失にどのように対処するか?基礎プラクティカムを担当した講師が答えられないので、グラッサー先生に質問するように言われた、という内容であった。以下は回答の要約である。
どんな悲惨なことが過去に起こったとしても過去は変えられない。人は現在に生きているので現在欲求充足をするしかない。過去に虐待を受けた人は、現在の問題に直面している。その問題の99%は、良好な人間関係の欠如ということだ。これは本人、あるいは周囲の人が外的コントロールを使っているからだ。従って、過去ではなく将来に焦点を当て、良好な人間関係を現在見つけ、さらに良好なものにすることだ。良好な人間関係を現時点で創造できれば、過去にどれ程ひどく苦しいことを体験していたとしても、良い人生を送ることができる。人はPTSDで苦しむのではい。悲嘆体験もせいぜい6ヶ月、長くても1年。時間が経過しているのに、なおも悲嘆にくれているのは、現時点でそれに代わる人間関係を持っていないことにある。過去を埋め合わせるという考えは受け入れがたいかもしれないが、現在を扱う以外にできることはない。(pp.6-8)
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
日本選択理論心理学会ニュースレター76号より
東京都新宿区歌舞伎町「駆け込み寺」
歌舞伎町で駆け込み寺を始めた人、玄秀盛(げん・ひでもり)。自分が白血病のウイルス保持者であることを献血で知り、そして発症後1年以内・・・と宣告された。人生の生きた証を持ちたいと、ビジネスを閉じて、歌舞伎町で駆け込み寺を開設した。
母親と呼ぶ人が4人、父親と呼ぶ人が4人、父が移動するたびに、また母が移動するたびに、ついて行くしかない少年時代だった。その人生は壮絶としか言いようがない。玄をモデルとしたドラマが渡辺謙主演で放映された。俳優渡辺謙は、玄を正直な人と称するが、私にはむしろ赤裸々な自己開示という印象が強い。ドキュメンタリーも放映され、鶴瓶とのトークショーにも出演した。ハヤカワ・ノンフィクション文庫『駆け込み寺の男、玄秀盛』(佐々涼子著)の帯には「新宿歌舞伎町で14年。いかなる悩みも解決してきたこの男、いったい何者?」と書かれている。私は玄にもらった3枚のDVD、書籍3冊すべてに目を通し玄の壮絶な生き様に触れた。
紹介者は私の教えていた大学のゼミ生・浅井夕佳里。彼女は臨床心理学を学ぶため、社会人入試で大学生となり、私のゼミ生となった。最近『ママと子どもで一緒にはじめる発達障がい“改善”ステップ』を出版した。ゼミで学んで知った以上放っておけないと発達障がい改善の道に入り、NPO「心和」を立ち上げた。浅井夕佳里は、以前駆け込み寺のボランティアとして会計を手伝ったことがあり、今回彼女から柿谷正期はゼミ担当教授だったと玄が聞き、9月23日急遽私が歌舞伎町の駆け込み寺を訪れることになった。駆け込み寺を出た後、駆け込み酒場“玄”に行った。この酒場は一般社団法人「再チャレンジ支援機構」の活動の一環でもあり、犯罪者の社会復帰の支援をしている。私が玄に手渡したコピー「選択理論と犯罪矯正に関する研究」(ニュースレター67号)は、選択理論が犯罪矯正にどれほど効果的かを示している。玄が求めていた情報があったに違いない。玄は刑務所と出所後の犯罪矯正に役立つプログラムを模索していた。これまでの玄の破天荒の生き方と、「たった一人のあなたを救う」と掲げた彼の「贖罪」の想いが、これまでの資金難をはじめとした諸問題を乗り越えさせ、多くの人を救ってきたのであろう。今後玄と選択理論はどのように繋がって行くのであろうか。(敬称略)
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
日本選択理論心理学会ニュースレター75号より
グラッサー・クォリティ・スクールの3本柱
クォリティ・スクールと題した書籍をグラッサーが著したのが1990年。翻訳本が出版されたのが1994年。米国ミシガン州で最初のクォリティ・スクールが誕生したのが確か、1994年。達成したお祝いをしていると、近隣の学校から、「自分たちだけがクォリティ・スクールになったと言っているが、我々の学校はそうではないという意味?」というつぶやきが聞こえてきた。そこで、グラッサーの提唱する、クォリティ・スクールという意味で、「グラッサー・クォリティ・スクール」という名称を使うようになった。以下の(1)〜(6)はGQSの基準と言われているものにつながる項目で、『グラッサー博士の選択理論』p.464を参照されたい。
グラッサー・クォリティ・スクールには、3本柱があると見ることができる。1本目の柱は「環境」である。(1)規律違反の問題は1年目で大幅に減少するはず。グラッサーは、デミングが指摘する「14項目」の中で、最も重要なのは「恐れを取り除く」ことだと言う。強制のない温かい学習環境を作り、(6)喜びに満ちた環境にすることが1本目の柱。関連書籍は、『クォリティ・スクール』8〜10章、『あなたの子どもが、、、』1,3〜5,11章、『Quality School Teacher』1〜4章参照。(Quality School Teacherはまだ邦訳がない)
2本目の柱は「責任」。自分の行動に責任を持つということは、人のせいにしないで生きること。親や教師のせいにして、反抗してあえて勉強しない選択をする生徒は、まだ責任の概念を学んではいない。生徒も親も教師も選択理論を学べば、責任ある行動を取れるようになる。自分の幸せにも責任が持てる。(4)生徒はなんらかの上質な取り組みをすることが期待されている。『クォリティ・スクール』6章、『Quality School Teacher』3,7,9〜12章参照。
3本目の柱は「成果」。学校が喜びに満ちた学習環境であれば、学習は楽しくなる。学習が楽しくなれば、(2)学習成果は当然上がってくる。(3)成績はAが殆どで、たまにB評価もありという程度で、教科の理解は上質なものであることが期待される。(5)生徒も教師も親も、勉強会に参加して選択理論を学び、生活に適用している。『グラッサー博士の選択理論』10章、『あなたの子ども、、、』2,6〜10章、『Quality School Teacher』5,6,12章参照。教育関係者はまず「環境」と「責任」領域から取り組めるのではなかろうか。 柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
(日本選択理論心理学会ニュースレター74号より)