柿谷カウンセリングセンターはリアリティセラピー(現実療法)を主とし全人的アプローチを目指していす

メンタルへルスに関する一考察

柿谷 正期*

A Thought on Mental Health
Masaki Kakitani*

What is mental health and what defines the true professional in the field? William Glasser argues against the conventional thought that a psychiatrist is the metal health professional even though he is a licensed psychiatrist. The author presents the history of traditional psychiatric attempts to treat mental health problems in addition to pharmaceutical marketing and approval processes. Evidence is provided that indicates that treatments used and drugs administered are not effective and sometimes the cause of more significant problems? The only real solution to mental health problems is the development of warm human relations with others void of prescriptions drug usage. Key words: Glasser, mental health, drug, antidepressant, dopamine, serotonin.

 メンタルヘルスの専門家とはだれなのか。グラッサーは2005年にDefining Mental Health as a Public Health Issueを著し、精神科医師は必ずしもメンタルヘルスの専門家ではないと指摘した。本書は『メンタルヘルス—こころの健康の保ちかた—』というタイトルで日本語になっている。

2007年8月20日の新聞報道で、“公務員心の病気急増”と題して、社会経済生産性本部の全国調査が紹介された。ここ3年間で半数近くの地方自治体で心の病が増加傾向だという。職員数3,000人以上では8割の人が心の病を抱えていると報告されている。

2007年版の障がい者白書は、精神障がい者数は300万人と報告している。中学生の25%がうつ状態であるとも言う。そして30歳代の82%が仕事の将来に不安を覚え、同82%は仕事でストレスを感じている。そしてストレスの30%は人間関係だと言われている。グラッサ-(2005)は著書『メンタルヘルス』の中で次のように指摘している。

医学部での私の経験によると、医師は患者を病気か健康かに分ける。病理があれば病


*立正大学(Rissyo University)
(本論文は日本選択理論心理学会2007年大会の基調講演を基に執筆された。講演時のスライドが添付されているので、参照されたい。)
気。なければ健康ということになる。病気のない健康な状態は、医師の関心事ではない。これについては、精神科医も同じだ。(p.5)

グラッサー(2005)は同書でメンタルヘルスの定義について、次のような項目を挙げている(pp.7-8)。そして、グラッサーは、これらを満たしている場合には、メンタルヘルスは良好であると言う。

  • 重要な人間関係を楽しんでいる。
  • 人の気分を良くするお手伝いをしている。
  • 過度のストレスはなく、よく笑っており、痛みや苦痛を感じる事はほとんどない。
  • 自分と違う人を批判することなく受け入れ、相手を変えようとしていない。
  • 仮に問題を抱えたとしても対処方法を知っている。

 筆者は、2007年7月、米国でのウィリアム・グラッサー協会国際大会に参加した。そこでグラッサーが裏表紙でコメントしている一冊の本を入手した。グラッサーは「この本はとても興味深く、読み始めたら止められない」とコメントをしている。America Fooledという題の本である。「騙されているアメリカ」と訳せる。著者Timothy Scott(2006)は、心理学部の教授であるが、実は自分も騙されていたと告白している。今まで自分が使って来た教科書の中に間違いが幾つもあることに気付いた。自分も騙されていたと著者Scottは言う。こうしたことを知るようになったきっかけかは、母親のホルモン療法であった。更年期障がいの治療にホルモン療法をするかどうか迷っているという相談を母親から受けた。Scottはこの件に関してはたいした知識もなかったので、「まあ、いいのではないか」という反応をした。その時はしないという事でしばらく様子見であったが、やはりホルモン療法をすることになり、その結果母親は乳がんを発症してしまった。そこでScottは因果関係を調べ始めた。ホルモン療法を勧めている人の論文が幾つもあることが分かった。しかし、ホルモン療法を推奨する論文の著者は、製薬会社の援助を受けながら、そういう論文を書いていることが分かった。その時点では、ホルモン療法を受けると乳がんの発症率が高くなると分かっていた。分かっていたのにそれが知らされていなかった。これを契機として精神疾患の領域の調査をしてみると「えっ、これも根拠がない」「えっ、これも根拠がない」というような事を幾つも発見。Scottは、やむにやまれずに本にまとめあげた。それがAmerica Fooledという本である。

精神医学の治療の歴史

精神医学の治療の歴史をたどると、おぞましい汚点が見られる。水攻めにするとか、急速に動くブランコのようなものに患者を乗せて、恐怖体験をさせる。その恐怖体験をさせる事で恐怖から抜け出せる。そのような試みがなされた時期があった。ベンジャミン・ラッシュ(Benjamin Rush)は、血を抜くことで治療できると血抜き療法を行なった。グラッサ-の著作でも、ワシントン大統領は血抜き療法で殺されたと書かれている。

ヘンリー・コットン(Henry Cotton)は、バスツールのバクテリア発見にヒントを得て、精神疾患を患っている人の歯にばい菌がいるので、その歯を抜けば良いと考えた。歯を抜いてこのように良くなったと報告した。歯だけではどうしても解決しない場合は、扁桃腺を切除、そのうちに盲腸、胆嚢、卵巣、卵管、精巣と、取れるものを取って、こんなに良くなったと報告する時期があった。その他にインシュリンのショック療法がある。低血糖状態にしておいて、これ以上危ないという時には血糖を補充することで、狂気を治療するという試みがなされた。また、カンフルの注射をする事で治療するということもなされた。他にはECT、電気ショック療法がある。 これは一時期下火の時期もあったが最近また復活している。やり方が改善したと言う事で、以前よりもECTは行なわれている。精神科医は、理由は分からないけど、「良くなる」と言っている。脳の損傷による変化であっても、単なる変化を改善ととっている可能性は否定できない。

ロボトミー、前頭葉の切除手術が行なわれた時期があった。これを考案した人は当時ノーベル賞を受けた、間違っていた外科手術であったが、間違ってノーベル賞が授与された。考案した人は患者に2度襲われ、最終的には殺害されている。前頭葉を切除するためには麻酔科の医師が必要で、手間もかかる。そのうち目の上の部位に千枚通しのようなものを差し入れ、中をぐるぐるとかき混ぜるような簡単な手術が行われるようになった。そのうちにそれも訴えられ、他にいろいろな問題があるので、どうしようかという時代に薬物療法が始まった。1950年代のことである。人々は、薬物療法をケミカル・ロボトミーだと言って歓迎した。これまでは外科手術で前頭葉を切除していたのであるが、化学物質、薬物によって前頭葉の機能を変えていくことができるということで、ケミカル・ロボトミーといわれるようになった

薬物療法

グラッサ-(2005)は『メンタルヘルス』の本の中で次のように述べている

ほとんど全ての精神科医はこうした障害を向精神薬で治療すると言います。そして、暗示されている事は患者やその家族にできることは何もない、ということです。(p.1)

さらに

私は1957年にカウンセリングを始めて人々のこころの健康の向上に取り組んでそれなりの成果を出してきた。・・・この間私は、向精神薬の処方をせず、カウンセリングだけをしてきた。(p.10)

グラッサ-は精神科医であるが、一度も精神科の薬を処方した事がないと言うほど、徹底して薬を使わない取り組みをしている。しかし、グラッサ-は、ピーター・ブレギン(Peter Breggin)ほど薬の問題を全面に出して対決姿勢を示してはいない。ピーター・ブレギンは、訴訟問題を起こして闘っている先駆者である。ブレギンは精神科医であるが、リタリンを使っている子どもがアメリカには、500万人、600万人もいると指摘して、彼らを護るための訴訟を起こしている。グラッサ-は選択理論を広めたいという思いがあるので、対決姿勢を示してはいないが恐らくスタンスとしてはブレギンと同じであろう。

製薬会社との癒着の例としてよく知られているのが、ロバート・ウィルソン(Robert Wilson)である。 彼はホルモン療法の推奨者として知られている。1962年にJAMA(The Journal of the American Medical Association)に、Estrogenについて論文を書いたところ、製薬会社からアプローチを受けるようになった。1966年にFeminine Foreverという本を出版する。ホルモン療法を推奨する書籍である。この後、ウィルソンは、財団を設立したが、その資金は製薬会社の援助を受けたと言われている。彼の書く論文は、当然乳がんとの関係には触れないで、ホルモン療法は更年期を乗り越えるのに有効である、女性らしさを取り戻す事ができるということに集中する。しかし、奥さんが1967年に乳がんを発症。1970年に入るとホルモン療法と乳がんとの関係が明白であるということが分かってきた。これ以上ウィルソンは使い物にならないと判明したのか、製薬会社との関係は絶たれてしまい、1981年にウィルソンは自殺をしている。ホルモン療法に限らず、精神科領域でも癒着があると指摘されている。研究論文が書かれても、実際には製薬会社の研究員が論文をまとめて、会社外の学者の名前を借りて発表する。いわゆるゴーストライターの存在が指摘されている。このような論文がかなりあるとも言われている。

ケミカル・インバランスという説がある。精神疾患の人は脳の中に化学的不均衡が起こっていて精神疾患を発症しているという説である。いわゆる病気なのだから、どうすることもできない、ということだ。このもっともらしいケミカル・インバランス説に反対する人たちがいる。David Kaiser, MD, Peter Breggin, MD, Elliot Valenstei, PhD, Joseph Glenmullen, MD, Robert Whitaker (Medical Journalist), Susan kemker, MD, Allan Horwitz, PhD, Charles E. Dean, MD, Loren R. Mosher, MD, Ellen M. Borges, PhD, Colin A. Ross, MD, そしてWilliam Glasser, MDたちである。

セロトニン/ドーパミンの増減説がある。セロトニンが低いとうつ病になり、ドーパミンが高いと統合失調症になるという説である。しかし、どこまで科学的かとなると疑義をはさむ人は少なくない。精神疾患の履歴のない人に神経伝達物質の高低の差がある。セロトニンが低くなるとうつ病になると言われているが、必ずしもそうではないケースがある。ドーパミン量が多いと統合失調症になると言われるが、必ずしもそうでないケースがある。うつ状態でセロトニンの分量が多い人、統合失調症でドーパミンの量が少ない人がいる。また、一つの神経伝達物質を狙った薬、例えばセロトニンを狙ったとしても、それだけに作用するということは無理である。SSRI系の薬はセロトニンをターゲットにしているが、セロトニンだけに作用させるのは無理である。他の神経伝達物質にも影響する。例えば、ストレスだけでもドーパミンは上がる。そして、セロトニンは下がる。マッサージをするだけで、ドーパミン、セロトニンのレベルは変わる。食べ物を変えるだけでもドーパミンのレベルは変わるし、食べ物を見るだけで、あるいは匂いを嗅ぐだけでドーパミンのレベルは上がっていく。運動すると、ドーパミンレベルの低下を防ぎ、セロトニンの高さを維持する。また、睡眠サイクルの違いでセロトニンレベルは変化する。テンポの速い音楽はエピネフリンという神経伝達物質の量を増やす。風邪をひくと、ドーパミンは高くなる。風邪を引いて数日後には、ドーパミンは減少していく。ドーパミンの絶対値は今の科学では測定できない。死んだ人を解剖して測定する事は出来るであろうが、生きた人間のドーパミンレベルは絶対値で測定できない。人の内側で起こっているはずと言われるケミカル・インバランスに関しては、科学的な根拠がなくなってくる。ドーパミンよりもセロトニンレベルを測る方がもっと困難だと言われる。スコット(2006)は、著作の中で180以上の参考文献を挙げながら読者が確認したかったらその論文を見ることができると述べている。スコットは、心理学部の教授で教科書を使って色々学生たちに教えてきた。うつ病は、家族関係の遺伝因子が関係しているとか、統合失調症も同じだとか教科書を使って教えて来た。しかし、それを支持する根拠は乏しいということが分かって来た。双子に関する研究論文がある。ところが、調べてみると欠陥論文であると分かった。例えば双子を別々の所で育てて片方が精神疾患になると片方も同じようになる、と言われている。では、別々の所とはどういう所だろうかと調べてみると、隣だったりする。つまりほとんど環境をコントロールできていない状況の中で書かれた欠陥論文であることか判明した。Genain家の4つ子研究も他の双子研究も欠陥論文であると判明した。このようにスコットは、自分が教科書を使って心理学部の学生たちに教えてきたことも間違っていたと言っている。

JAMA論文にZoloftに関する比較論文(2002)がある。比較されたのは、向精神薬のZoloft、セントジョーンズワートというハーブ、そしてプラシーボであった。プラシーボというのは何の効果も出さないはずのいわゆる偽の薬である。デイビッドソン(Davidson)はこの研究の第一著者である。結果が三つとも同じ効果であると出たのであるが、デイビッドソンは、「セントジョーンズワートの効果は支持されなかった」と書いた。結果が同じであれば、「Zoloftの効果は支持されなかった」と書くはずであるが、そう書いていない。よく調べてみるとデイビッドソンは製薬会社から資金の提供を受けていることが判明した。本来こういう論文を書く人たちは、製薬会社との資金的な関係がないということを明らかにしなければならないのであるが、そうされていないことが多い。製薬会社に好意的な結論を出す研究者の96%は、製薬会社から財政援助を受けているということがこれまで判明している。

自殺をめぐって

アメリカの国会で自殺と抗うつ剤の関係について公聴会が開かれた。2004年7月20日に公聴会が予定されていた。ところが前日になってグリーンウッド議員が委員会をキャンセルした。そして20日の公聴会が予定されていた当日、議員を辞職してBIOグループの社長となることが発表された。このBIOグループというのは、バイオテクノロジー・インダスリー・オーガニゼーション(Biotechnology Industry Organization) で、製薬会社も組織の一員である。そして、公聴会は9月9日に別の人が委員長になって開催された。以前から抗うつ剤と自殺との関連が指摘されていて、日本でもごく最近16歳以下の若者に投与しないように言われたことがある。特にパキシルというSSRI系の薬には自殺願望を引き起こす副作用があると言われている。プロザックやパキシルによって自殺や他殺事件が引き起こされたとして、米国では裁判が行なわれている。アメリカのFDAは24歳以下の若者への投与は気をつけるように警告している。若者も成人も全く同じだと言われている。この向精神薬の治験は、成人を対象に4週間、6週間長くて8週間実施される。そして、一旦認可されると、これはそのうち子どもに使われるようになる。子どもは成長過程にあり発達途上であるので、どういう影響を与えるか不明である。何年も経過した後で、結果的始めてわかってくるというのが実態である。公聴会の中で、ウオルディン(Walden)議員がこう言っている。「どの研究も効果の程を示さなかったのですか?」と。ファイザー製薬会社は答えています。「統計的にはZoloft、プラシーボの間には違いはありませんでした。」それに対して、ウオルディン議員が、「JAMA論文ではZoloftに効果があると書いてある。それはどうしてですか」と追求している。また、ワックスマン(Waxman)議員が、「それでは2つの否定的な、つまり結果が否定的な論文を一緒にまとめて、効果があったと発表したのですか?」と質問した。ファイザーが「そうです、でもそれは、効果がわかる前に科学的に決定されていた結論だったのです」と答えた。研究結果がどうであれその前に結論は出ていたということなのだ。製薬会社にとっては、もしこの公聴会で自殺の関連が明白になり、人々が薬を使わなくなれば、壊滅的な打撃を受けるわけである。それを防ぐための手立ては充分取られていた。

治験の問題

抗うつ剤の治験はどのように行なわれるのか。前述したように治験は長くて8週間である。8週間というのは2ヶ月である。抗うつ剤を飲むときに最初に言われることは、「しばらく飲まないと効果が出ないのでしばらく飲み続けて下さい」。8週間で終る人はまずいないであろう。カウンセリングに見える人の中には、若い人でもトータルで10年飲んでいると言う。10年も飲んでいるものをどうやって離脱できるか、大きな問題である。非常に難しい。治験は、ほとんどが6週間で、4週間で終わるものもある。FDAは、アメリカの厚生労働省のようなところである。何年か後に結果が分かるケースとしてこのようなものがある。68歳以上で高血圧の男性を対象に、一方には降圧剤を投与し、一方には降圧剤を使わない。結果は、降圧剤を投与されたグループの死亡率は35%、使わなかったグループは18%であった。こういう事が10年後に分かってくる。何のための薬だったのかと疑問が出てくる。薬を使わない方が長生きするというようなケースは珍しいことでもないようである。もちろん薬によって問題を解決できたというケースは当然ある。ただ、抗うつ剤の場合には、目に見える病理があるわけでもなく、効果のほどが測定されるわけでもないので、色々問題点がある。

セルゾン(Serzone)という薬が1994年に市場に出ていたが、やがて肝臓障害が判明した。カナダでは、2001年に警言をし、2003年に禁止。オランダでは2002年に禁止。しかし、禁止しない国もいくつかある。リダックス(Redux)というダイエットの薬は、1995年に委員の賛成、反対の投票の結果、6:5で承認された。しかし、1997年に心臓のバルブ障害を起こす可能性があるという事が報道されて中止になった。政府機関の承認=安全ということではない。抗うつ剤の治験の問題点は、被験者の脱落者が多いということがひとつ挙げられる。脱落した場合の対応の仕方が科学的でないのだ。47の研究のうちの70%の被験者が残ったケースはわずか4つしかなかった。もっと大きな問題は、2週間たって改善しない被験者は除外され、別の人と入れ替えられる。ある程度科学的な事を知っていたら「何?これで科学的な論文?」ということになる。この場合、除外された人数は、脱落した人数には数えない。それから更に興味深い事は、47の研究のうち25の研究では鎮静剤が投与されている。治験対象の薬に効果があるか、それともプラシーボなのかを調べるのに、鎮静剤も使われる。そうすると、良くなったのはこの薬なのか鎮静剤なのか分からない。何故鎮静剤を投与するのか。余りにも興奮が激しくなって、その結果自殺も起こりうるというので鎮静剤が投与されている可能性がある。さらに、抗うつ剤とプラシーボを比較しても抗うつ剤が有効との結果は出ていないが認可されているという薬剤もある。薬剤への反応は、18%~82%。プラシーボへの反応は16%~60%。数字としてはあまり変わらない。47研究のうち4研究はプラシーボの方が有効であった。私たちはプラシーボという名前は知っているが、プラシーボがどれほど有効なものであるかに案外気づいていない。しかし、とても大きな効果をあげている可能性がある。従って、新薬を使う医師が「これはいい薬ですよ」って言えば、それだけでも結果を出す可能性があるということだ。9研究は、改善率の平均値を提出していない。47の研究を全部調べていくなかで、以上のような問題があることにスコット(2006)は気づいた。こうした治験の結果、34研究が薬物を有効と報告している。しかし、副作用、例えば口の渇き、眠気を体験している時に被験者は大きな変化を報告する傾向があることを忘れてはならない。プラシーボにも同じような眠気とか普通と違うものが出れば、ひょっとしてプラシーボに効果があると答える人の数が増える可能性がある。従って、単に新薬の副作用であるのに、その副作用を薬効と思わせてしまう可能性がある。Psychosomatic Medicine(2000)に発表された研究では、運動した場合、薬物を使った場合、運動と薬物をかね合わせた場合を比較している。50歳以上の男女で、うつ病と診断された男女156人を3つのグループに分けて、Zoloftの投与、運動だけ、薬物の投与と運動の両方をしてもらう(Figure1)。運動は1週間に3回、30分程度。結果を見ると、運動だけで80%改善している。薬を使った場合に50%くらいの改善。両方合わせたものが60%程度。そして16週間後にうつレベルを検査してみた。10ヶ月後の検査で悪化したのは、運動の場合は10%もない。薬物療法の場合は35%を超えている。運動と薬の両方の場合はこれより低く30%程度。薬物療法よりも運動の方が、はるかに効果があるということだ(Scott, 2006, p.173)。


Figure 1

抗うつ作用と言うのは、抗うつ剤だけではなく光線療法にも効果がある。10.000Luxの光線を当てる療法である。冬や秋は、日照時間が短くなるので、うつ病になりやすいということが知られている。東北あたりでは、日照時間が徐々に短くなるので、うつ病になる確率は高くなることが知られている。そして光線療法をすると随分改善すると言われている。鍼にも効果がある。セントジョンズワートというサプリメントにも効果がある。そしてプラシーボにも効果がある。

ただ私たちがカウンセリングをしていると「やあ、薬を使って良くなりましてー」という話を聞くことがある。薬を使って調子が良くなったという人の体験を、どのように理解したらいいのだろうか?薬は飲まない方がいいと言うと、薬を飲んで良くなった人は反発する。ものすごい反発をする。反発をするのは、医学関係者だけではない。実際に私は飲んで良くなったと主張される。一つにはプラシーボ効果をそう思っている可能性がある。また、時間が解決したものを薬効と考えている可能性がある。そしてもう一つは、平均値への回帰の現象を薬の効果と感じているということである。平均値への回帰というのはすべて平均値へ戻っていくということで、統計学の世界だけではなく、すべてについて言えるということである。例えば今日、怒りっぽかったら、明日はそんなに怒りっぽくない、と言うこと。調子が悪かったら調子がまた良くなる。薬を飲んでいても飲んでいなくても私たちは毎日経験している事である。それを薬の効果が出たと捉えてしまっている可能性がある。ひょっとしたら、何も使わなくても、時間さえたったら問題が解決する、というケースもあるわけである。これが薬と結びついたときには、「薬を飲んだから良くなった」と主張するのも当然であろう。

薬が問題というのは、とぎどき新聞で報道される。T-PA製剤で8人死亡という報道があった。私たちがよく知っているケースに、サリドマイド被害がある。これは、国が認可しているから安心と言えないケースの一例である。48ヶ国で8,000人~12,000人のベイビーが1950年~60年代に障がいを持って誕生している。この薬は薬害が世界中に広まる前に、英国人女性が一度だけ使っただけで、腕の短い、右眼がなくて、左眼の視力がわずか10%しかない子どもを出産している。サリドマイドは、1953年にスイスで製造された。スイスの製薬会社は余り使い物にならないからという理由で、ドイツの製薬会社に譲渡した。当初は抗てんかん薬として使う予定で申請をしたのであるが、眠気がするということが分かり、睡眠薬として使えると、眠剤として申請された。1956年に耳の無い女児が誕生したというのが最初の報告であった。ドイツの製薬会社の従業員が妻に与えた結果だった。1956年には製薬会社の従業員の奥さんから障がいのある赤ちゃんが生まれている事はわかっていたのであるが、1957年10月1日には処方箋を必要としない薬として市場に出ている。やがて、この薬は大人だけでなく子どもにも与えられるようになった。やがて50種類の医学雑誌に掲載されて、安全だと宣伝されていった。更に1958年には妊婦の抱える不安に有効と宣伝されるようになった。ところが、1961年12月16日にサリドマイドが奇形の原因ではないかと、オーストラリアの医師が指摘した。同じような疑いのあるケースがあったら、自分に報告して欲しいと言った。一方ドイツでは、レンツ(Lenz)が、サリドマイドが奇形の原因ではないかと製薬会社に尋ねている。「お宅の製薬会社にそのような報告はきていますか」と。もちろん製薬会社は否定した。レンツは自分の疑いを小児学会でも公表した。そして公表した翌日、会社はレンツの家まで来て、弁護士を伴い訴訟を起こすと脅したと言う。そして7万通の手紙を医師に送付して、安全である事を保障すると公言した。ところが、こうしたことが新聞報道で取り上げられ、そのうちドイツの市場から追放されるようになった。しかし、ドイツ以外の世界では売り続けられていった。日本は、随分長い間サリドマイドを使って、被害を重ねて行った。他国では禁止されているのに、日本では使われているという薬は幾つもある。

ベンゾジアセビン系の睡眠薬でハルシオンというのは、オランダでは禁止されている。自殺念慮を誘発するというのが禁止の理由だ。日本では精神科医は、ハルシオンは使わないようであるが、心療内科に行く人は、非常に使いやすい薬ということで、処方されている。筆者が最初にハルシオンに疑問を抱くようになったのはグループホームで起きた事件だった。筆者は家族で精神障がい者のためのグループホームを運営していた。17年間一緒に生活しながら関わって来た。入居者の19歳の女の子が、「死にたい」「死にたい」と、憑かれたように言っていた。彼女はハルシオンを飲んでいた。ただその当時は、まだハルシオンにそのような副作用があるという事は知らされていなかった。彼女は、真夜中過ぎに2階のベランダから飛び降りてしまった。ドスンと大きな音がしてびっくりしたが、下に物置があったので、怪我をすることもなかった。グループホームの運営をしている間に、抗うつ剤を飲んで未遂を起こした人、飛び降りた人3人、その他睡眠薬で自殺を図った人、富士の樹海に入り込んだ人というように、何人もの人が死のうとした。幸い私達が関わっている人が大磯ハウスで亡くなったというケースはなかった。抗うつ剤の飲み方にも問題があるようである。薬を急に止めて問題を起こすケース、止めている人が再び飲み始めて問題を起こすケースとさまざまであるが、薬物に問題がありそうだという事は感じていた。

そのうち、ハルシオンには自殺を誘発するという副作用があると、新聞で報道されるようになった。しばらくして、私がお世話になっていた中央大学の英文学の大浦先生から、「あなたの領域で関心があるかも知れませんが、私はこういうものを訳しました」と連絡があった。雑誌『新潮』に一人の作家がハルシオンを飲んで、どのような体験をしたかを記したものが掲載された。この作家は、フランスで文学賞を受賞することになっていたが、死にたいという思いがつきまとっていた。そこで、別の精神科医に診てもらったところ、その精神科医はびっくりして、「こんな薬を、こんな大量に、こんなに長期間、こんな高齢者に」と唖然とする。短期間であればまだ受け入れられるものを、長期に渡って使っていることに驚くわけである。そこで、その薬を止めて、別の薬にしてもらったところ、死にたいという気持ちが、潮のように引いて行った。彼は作家であったので、転んでもただでは起きない。体験談をまとめて、それが本になって『見えぬ暗闇』というタイトルで新潮社から出版された。

サリドマイドは、ランセットという研究誌に、1962年、ウサギの実験で奇形が起こったと掲載された。サリドマイドの場合、色々問題があってもそれが公にされないで捻じ曲げられて売られて来たわけであるが、同じような事はたくさんある。とりわけ、向精神薬の世界はもっと操作しやすいと言われている。

薬効か副作用か

FDAが承認する基準は、プラシーボより少し有効であれば良いというものである。有効な薬が一つあるとする。そこに類似した薬を出そうとする。前の薬よりも更に効果があるという事を主張する必要は全くない。もうすでに立派な薬があったとしても、新しい薬がプラシーボより効果があるというデータ-を出せば、認可されるわけである。委員の票が6:5のすれすれであっても認可される。すれすれで認可されたり、すれすれで却下されたりする。そして問題点は、副作用があれば効果があると感じられる点である。プロザックの治験では、精神安定剤が同時に使用されたので、うつ病に効果があったのはどちらなのかということが分からない。初めはこの薬は、この特定の症状に効果があると言われていても、そのうちに強迫神経症に対しても効果があると後に追加される。プロザックもそうである。摂食障害にも効果がある。高齢者のうつ病にも効果がある。月経前の症候群にも効果がある。こうしてこの効果の対象が広がっていく。プロザックが出たのが1987年なので、2007年で20年経過したことになる。ちょうど特許が切れる時である。切れる前にこういうものに効果があると増やしていけば、特許を長引かせることができる。さらなる問題は、長期服用がどんな副作用をもたらすかは誰にも分からないことだ。SSRI系の薬が20年前に出た時には、こんな新しい薬がでた、新薬ですごいぞって言われていた。アメリカでそのように言われていると、日本の家族会の人たちは「どうして早く日本の厚生・労働省はそういう薬を認可しないのだ。新しい薬さえあれば、うちの息子や娘は普通の生活が出来るのに」という甘い望みを抱いて早く認可して欲しいと嘆願する。この「薬さえ飲めば!」という考え方は日本に多い。カウンセリングをしていると、それを特に感じる。少なくとも分かっている副作用には、動作障害、興奮(アジテーション)、性機能不全、骨形成不全、胃、食道からの出血などがある。抗うつ剤のいろいろな副作用を知っているとしても、胃や食道から出血する可能性があるということは知らないであろう。どこかに書いてあるはずではあるが、副作用の詳細を私たちは知らないことが多い。子どもが飲んだら骨の発達に影響する。パーキンソン病の震えが出ることもある。これはドーパミンの現象で通常起こるもので、抗うつ剤はセラトニンの濃度を変えるはずである。しかし、SSRI系の薬は、ドーパミンの減少も引き起こすわけである。ねずみの実験では、ドーパミンにも影響する事が判明している。つまりセラトニンだけに影響するわけではなく、ドーパミンにも影響する。恐らくその他の神経伝達物質も無数にあるので、影響を及ぼしている可能性がある。

Tardive dyskinesia(遅発性ジスキネジア) と呼ばれる副作用は、顔とか舌とかが自然に動く、肩、腕、足の筋肉のけいれんが起こってくる。乳がんと抗うつ剤との関係も動物実験では明らかになっている。性機能について関連があるとも書かれている。副作用は2%から7%程度と書かれているが、実際にはもっと多く、30%から60%は関係しているだろうと言われている。最近分かっている事は、「この薬を飲むと眠気を催すかも知れないので、車の運転には注意して下さい」と書いてあるものは、性機能に影響するという事が分かってきている。心臓発作は、プロザック服用者に2倍半多いという事が言われている。特に最初の7日間で頻発する。筆者の友人の奥さんが調子が悪くなって入院した。そして、1週間以内で亡くなった。知らせを受けたとき自殺かなと思ったが、自殺ではなかった。病院に入って抗うつ剤を飲んで亡くなったのだ。薬を飲んですぐに亡くなったというケースは、かなりあるはずであるが、余り知られていない。

虫歯が多いということも報告されている。これは1981年にオランダで発表されている。何故、抗うつ剤を飲む人に虫歯が多いのか。一つには口が渇く、唾液が少なくなる。もう一つは、抗うつ剤や抗精神病薬は鈍麻効果(Blunting Effect)があるからである。もういい、どうでもいい、という感じである。ここから、食べ過ぎ、歯を磨かない、ということが起こるのではないかと言われている。しかし、抗うつ剤を飲む人に虫歯が多いというのは、あまり知られていない。

骨形成の遅れは、ねずみの実験で確認されている。成長途上の子どもにはよくない。大人のために作ったものでも、子どもに飲ませてしまう。オーストラリアでは、子どもたちに心理検査を受けてもらい、リスクの高い子どもは、将来精神疾患を現すようになる前に、予防のために薬物療法を始めようという動きがある。まだ障害が出ていない段階で薬物療法を始めるわけである。このような子どもたちは、何年か経つと予想通り精神疾患を発症するようになる。「やっぱり、そうだった。でも薬がちょっと間に合わなかった」と言われる。ひょっとしたらその薬がそうさせた可能性があるのであるが、そこは不問とされる。オーストラリアでは、かなり問題になった。しかし、流れとしては、発達障害とかLDとか診断されると、薬で治療するように小学校で言われてしまうことがある。日本でも随分リタリンは処方されている。先日、テレビでリタリンを服用していた成人女性が、それを離脱する過程が放映されていた。実話である。どうしても離脱できないので、群馬県の病院に入院して離脱を試みた。大変つらい経験であった。リタリン、コンサータなどに依存している子どもたちも少なくない。

ねずみにプロザックを与えて、脳形成異常が報告されている。妊婦が服用してはいけない事になっている。プロザックを8歳以上の子どもに使ってよいとされているのも問題である。他の抗うつ剤は、5歳から8歳の子どもにも与えられている。認可されていないはずなのに与えられている。アメリカでは子どもたちが他の抗うつ剤も随分与えられていると言われている。誕生前に母親を通して抗うつ剤の影響を受けていた赤ちゃんは、62%から121%以上、呼吸器系疾患、ひきつけ、低血糖症にかかるということが2004年に言われている。プロザックと甲状腺異常、肝臓障害との関係があるという事も報告されている。FDAに報告される副作用は1%だけだと識者は言う。副作用は報告されない傾向がある。プロザックの服用開始から2週間~7週間で自殺念慮が起きて、服用を止めるまで続いたとFDAの委員が1990年に報告している。2004年9月13日には、FDAのロバート・テンプル(Robert Temple)が、15の研究を調べると抗うつ剤と自殺の関係はある、と発表している。FDAは当初なかなか抗うつ剤と自殺の関係を認めようとしなかったが、今では2度にわたってブラックボックス警告を発している。さらに犯罪と抗うつ剤の関係も報道されるようになっている。自己に対する暴力は自殺。他人に対する暴力は犯罪である。従って自殺が多くなるという事は、自己に対する暴力も他者に対する暴力も当然増えるということだ。挙げられているものをみるとアンドレア・イエ-ツ事件(ヒューストンのバスタブで子どもがおぼれた事件)、キップ・キンケル事件(アーカンソーの銃撃事件)、クリストファー・ピットマン事件(サウスキャロライナ州の祖父殺害事件)では、抗うつ剤を使っていたという事がわかっている。日本の事件でも多くが加害者の服薬が指摘されている。向精神薬のもたらす副作用としては、脳障害、短命、遅発性ジスキネジア、アカシジア、口の不規則な動きなどが報告されている。「シジア」と言うのはシッティングいう意味で、「ア」がついて座っている事が否定されたという事ですね。座っておられない状態の副作用を意味する。更に抗精神病薬を与えると脳の萎縮が20%あると言われている。

統合失調症の死亡率は、普通より高い。心疾患は若い人にもある。2倍以上ある。特に使い始めに多い。ジプレキサを使用している人の11%は、6週間以内に副作用を経験している。ジプレキサはよく使われている。そして心理的な副作用としては、鈍麻効果(Blunting Effect) がある。これが食欲の抑制力低下となり、肥満につながる。或いは歯を磨かない。どうでもいいという感じが生活の面で色々出てくる。無気力症候群などSSRI系の抗うつ剤と関係していると言われている。ゾーロフ(Zoloft)を健康な従業員に飲んでもらったところ、25%の人に興奮が見られた。1985年の治療で16人が自殺を試みて、2例は死に至っている。そこで自殺の危険度の高い人はそこから除外されたという経緯がある。そして認可されたのが2年後の1987年である。

ドイツでは、精神安定剤を同時投与することが勧められた。結局これは、安定剤を投与して自殺を減らそうということなのであるが、もともとのその薬の持つ自殺を引き起こす要素はどうするのかという議論が必要なはずである。しかし、認可されてしまったら、自殺防止のためには安定剤を投与するという事になる。1990年の2月までにプロザック(Prozac)に対する苦情は、28.623件あり、そのうち1.885件は自殺に関するものであった。プロザックを飲んで妻が子どもを撃ち殺し、自分も自ら撃って死んでしまったという事件が起こり、夫が裁判に訴えているケースがある。しかし、多くの人が服用しているではないか、だから大丈夫だと言われる。しかし、多くの人が服用している薬で、そのうち治療現場から消えていった薬は幾つも出てきている。

ポンディミン(Pondimin)という薬が1973年に開発されたが、心臓のバルブに与える障害が判明して、1997年治療現場から消えて行った。開発されて消えてゆくまでの4年間でどれほどの人が薬害を受けたことであろう。「遅発性」という言葉は、「後で」副作用が現れるということであるので、20年後にどうなるかは分からない。

治験報告4段階

製薬会社はPhase1・2・3・4という報告をFDAに出すことになっている。しかし、1~4の段階はすべて報告されていない。Phase1・2は、認可を得るためには必要である。通常4週間から8週間のデータが求められる。被験者の人数は、20人から80人程度で良いとされる。Phase3は、医師が処方してその結果を報告する段階である。短期間で数百人から3千人規模のデータが集まるわけである。そしてPhase4は、1年間3ヶ月ごとにFDAに報告する段階。1年間は3ヵ月毎、2年目には2つの報告、その後3年以降は半年毎に報告という仕組みになっている。但しこのような決まりがあっても実効性のない決まりで、報告されていないケースが多い。ちなみにCelaxaという薬は、Phase4の報告を1度もしていない。

精神の健康とは

健康ということを私達が考える時に連続帯モデルで考えていくと、片方にうつ、片方に喜びを対極させることが出来る(Figure2)。


Figure 2

うつ状態、通常うつ病と言われている人を助ける事ができる人は、次の3つを兼ね備えている。①常識のある人、②健康なメンタルヘルスにふさわしい価値観の持ち主、③うつに関する理解のある人。この3つを持っている人は、うつ状態の人を充分に援助できる。うつと喜びを対極させたように、悪いメンタルヘルスと良いメンタルヘルス対極化させると、連続帯となる(Figure3)


Figure 3

このどこかに私達は位置している。病気であるから何もできないと言った時に、連続帯で考える場合は、その線引きはできない。私達はどちらにも行くことができる。スコット(2006)が提示する効果的な指標を以下に記す。

  • 適度な睡眠を取っている。人には3時間、4時間で充分という人もいる。それが適度であればそれはそれでよいが、通常は少なくても6時間。しかし、長くて9時間以上は問題のようだ。適度な睡眠ということであろう。
  • アルコールや薬物を常用していない。
  • TVを観る時間が多くない。少ないほうが良い。何故ならTVというのは私達の価値観にチャレンジする。通常TVに出てくる女性は、美人で細身である。つい自分の配偶者と比較すれば、当然差がついてくる。そういう影響をあまり受けないためにもTVの時間は短い方が良い。グラッサ-クオリティスクールのGrand Traverse Academyも子どもたちや親にTVを観る時間は少ない方がいいと言っている。
  • 自分の価値観に反する事をしていない。
  • 自己訓練を身につけており、言い訳をしないで生きている。
  • 自分に過度の焦点を当てていない。常に自分に焦点を当て続けていると、うつ状態になる可能性がある。他の人と比べることもしない方が良い。
  • 人生に意味や目的を見出している。自分は何のために生きているのか、自分の人生は何を目指しているのかが明瞭である。
  • 説明のつかないうつ状態を経験していない。

説明のつかないうつ状態に触れておこう。内科的な要因がからんでいて、説明がつかないうつ状態になるということがある。内科的な問題が分かれば説明がつくのであるが、それまでは説明がつかない。甲状腺異常があってうつ状態になっている人がいる。胆嚢に癌があってうつ状態になっている人もいる。当初は胆嚢が悪いということは分からずに、うつ病と診断されていた。そのうち何年かしてガンが見つかった。また、息苦しさや強迫神経症的な症状を経験している人が、実は胆嚢が悪かったとか、低血糖症にかかっていたという問題もある。貧血によるうつ状態ということもある。ALSにかかっていて、うつ病とか統合失調症とか診断されるケースもある。ある人の場合、ALSの診断がつくまで10年もかかっている。この間うつ病と診断されたり、皮膚の下を虫がはっているような感覚を訴えて統合失調症が疑われたりした。10年くらい前から血液検査でCRPが非常に高かったという。何らかの炎症が起こっているということである。やがて歩いていてよく転ぶようになった。10年もかかってやっとALSという事がわかった。筋肉が破壊されていって、足を動かせない、声も少しずつ出なくなる。ALSが初期の頃には精神面での異常が現れることもあって、誤診されることがある。

化学物質過敏症という問題もある。カビ、花粉、ほこり、ダニとか化学物質、ホルムアルデヒド等。人によっては食べ物、例えばジュースを飲んでおかしくなる子もいる。それから塩素でおかしくなる子もいる。これらを融発中和療法で治療することがなされている。アメリカでは誘発中和療法をしているところがある(Rapp, 1992, 2003)

さらに、重金属汚染、水銀とか鉛等などに汚染されていてうつ状態になっているという事もある。歯科医師が昔、水銀、アマルガムを使って治療していて、知らず知らずのうちに吸い込んで、うつ状態になるということがあった。水銀を要因とするうつ病は、キレートするという事が必要になってくる。

  1. 他の人に純粋な関心を寄せる。
  2. 笑う。
  3. 人の名前を覚える。
  4. 傾聴する。
  5. 相手の興味について話す。
  6. 相手が重要と感じるように接する。

全ての項目が自己に焦点が合わさっていない。メンタルヘルスは自己ではなく他者に焦点を当てることだ。セリエが、「明白な意味と目的を持っている人は、基本的にはどんな障害も克服できる」と言っている。明白な意味と目的を持ちながら自己に焦点を合わせる生き方は出来ない。焦点は自己ではなく、自分の目指すものである。Rick Warren(2002)のThe Purpose Driven Lifeが2005年までに2400万冊出ている。これは人生の意味、目的を問うている。 グラッサ-(2005)はこう言っている。

カウンセラー主導の「心の健康教育プログラム」が最初にする事は、精神病であると診断されたすべての人々に脳に病理がないということ、従って精神病ではない、と教えることである。彼ら全員に共通している問題は、不幸だということであり、とりわけ不幸な人間関係に関わっているということだ。(p.26)

良好なメンタルヘルスは薬物で得られるのではなく、良好な人間関係を確立することから始まる。グラッサー(1998, 2003,2005) が言うように、外的コントロールの現れである、7つの致命的習慣(批判する、責める、文句をいう、ガミガミいう、脅す、罰する、褒美で釣る)を改め、思いやる習慣(受け入れる、違いを交渉する、励ます、尊敬する、耳を傾ける、信頼する、支援する)を使って人間関係を構築することこそ、メンタルヘルスに至る王道である。選択理論心理学の普及が急がれる。

参考文献 Breggin, Peter 1991 Toxic Psychiatry New York: St. Martin’s Press. Breggin, Peter and Cohen, David 1999 Your Drug May Be Your Problem Reading Mass: Perseu Books. Carnegie, Dale 1935 How to Win Friends and Influence People rev. ed. New York: Pocket Books, 1981 Glasser, W. 1998 Choice Theory: A New Psychology of Personal Freedom (柿谷正期 訳 2000 グラッサー博士の選択理論 アチーブメント出版) Glasser, W. 2003 Warning: Psychiatry Can be Hazardous to Your Mental Health New York: HarperCollins (柿谷正期・佐藤敬 共訳 2004 警告!—あなたの精神の健康を損なうおそれがありますので精神科には注意しましょう— アチーブメント出版) Glasser, W. 2005 Defining Mental Health as a Public Health Issue (柿谷正期 訳 2007 メンタルヘルス—こころの健康の保ちかた— 特定非営利活動法人 日本リアリティセラピー協会) Gosden, Richard 2001 Punishing the Patient: How Psychiatrists Misunderstand and Mistreat Schizophrenia Victoria, Australia: Scribe. 柿谷正期 2004 精神疾患へのアプローチ再考 立正大学大学院紀要 20号 pp.71-93. Lynch, Terry 2001 Beyond Prozac: Healing Mental Health Suffering Without Drug Dublin, Ireland: Merino Books. Rapp, Doris 1992 Is This Your Child ?: Discovering and Treating Unrecognized Allergies in Children and Adults William Morrow and Co. Rapp, Doris 2003 Our Toxic World—A Wake UP Call—“Can Chemicals Cause Epidemics? Environmental Research Foundation. Scott, Timothy 2006 America Fooled: The Truth About Antidepressants, Anti-psychotics and How We’ve Been Deceived Argo Publishing. Walker, Sidney, Ⅲ 1996 A Dose of Sanity: Mind, Medicine, Misdiagnosis John Wiley & Sons, Inc. (冬樹純子 訳 狂気と正気のさじ加減 共立出版) Warren, Rick 2002 The Purpose Driven Life Grand Rapids, Michigan: Zondervan Publishing house(尾山清仁 訳 2005 人生を導く5つの目的 . パーパス・ドリブン・ジャパン) Whitaker, Robert 2002 Mad in America Cambridge: Perseus Publishing.

*本論文は日本選択理論心理学会研究誌『選択理論心理学研究』(2009、11巻第1号、pp.3-16)

に掲載されたものです。著者は執筆時、立正大学心理学部教授。