選択理論の効用について、それぞれの分野で研究が進んでいる。学校、職場、家族関係はもとよりのこと、犯罪矯正の分野でも興味深い研究がなされている。以前CIW(California Institution for Women)について報告したことがあるが、今回は本年(2014年)始めに犯罪学の専門誌に掲載された関連研究を紹介したい。米国での女性犯罪者数は1980年代のそれと比較すると5倍増と報告されている。一人の犯罪者を収監すると一人当たり年間470万円の経費がかかるとされている。そして刑務所を出て3年以内に57%が再度逮捕されるという厳しい現実がある。
発表された論文によると、2011年に96人の女性受刑者に研究に参加してもらっている。自分から選択理論を学びたいという人々が対象である。CTC(Choice Theory Connections)のクラスは5段階ある。段階1(基礎20時間)、段階2(中級20時間)、段階3(基礎プラクティカム30時間)、段階4(上級プラクティカム30時間)、段階5(認定30時間と10時間のクラス外の課題)。段階4の受刑者は、クラス外で、段階1−3の受刑者のメンターとして支援者も務める。今回の研究論文の対象者は段階1(n=58人)と段階4(n=38人)の受刑者である。尺度としては5種類が使われ、ストレス、マインドフルネス、感情の抑制、満足感、抑うつ・ハピネスを測定した。結果としては、すべての尺度で改善が見られ、CTCの効果が確認された。特に早い段階でのトレーニングは女性受刑者のストレスを軽減し,その効果は長期に渡ることが確認された。段階4の受刑者は、段階1の受刑者よりも安定していることも判明している。これまでに受講した受刑者は476人に及び、順番待ちのリストに載っている受刑者は219人いる。筆者が訪問した2010年秋のリストはこれほど多くはなかったので、受講したい人は確実に増えている。これまでに判明している受講済みの受刑者の再犯率は2.9%で、米国全体の女性受刑者の再犯率57%と比べると効果の程を窺い知ることができる。
カリフォルニア州には、スリー・ストライクスという言葉で知られる厳罰がある。3度目の犯罪が軽微であっても、3度目の空振りは「アウト」とされ、ライファー(終身刑)となる。厳罰は必ずしも犯罪抑制の効果はない。むしろ CTCのようなプログラムに予算措置をするほうがはるかに有効である。刑務所に入る前ならもっと有効であることはだれでも想像できよう。
研究の詳細は下記の論文から得ることができる。http://ijo.sagepub.com/content/early/2014/01/15/0306624X13520129
International Journal of Offender Therapy and Comparative Criminology.(Jan. 16, 2014) “Effectiveness of Choice Theory Connections: A Cross-Sectional and Comparative Analysis of California Female Inmates”
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)