福島母親殺害事件は、母親の頭部と腕を切断、そしてその頭部をカバンに入れて警察に出頭という、極めて異常な行動を高校生がとったことで社会を戦慄させた。この種の異常な事件が起こる度に報道記事に注意していると、精神科への通院歴があることが小さく記されている。母親を殺害したこの高校生が、もし精神科で薬物を処方されていなかったら、この事件は起きていなかったかもしれない。そう考えるのは私だけなのだろうか。精神科にかかりながら、この種の事件が起こるということは、精神科の治療の無力さを示唆している。もちろん気力を奪い取るほどの強力な薬物を投与していれば、事件は起きなかったかもしれないが、通院患者にそのような薬物治療が許されるはずはない。精神科では許される範囲内での薬物が処方されたはずである。そして、その薬物の副作用は使用過程で徐々に知られていく。パキシル(抗うつ剤)の使用については、18歳未満に処方されることが一時禁止されたことがあった。若者に処方すると、自殺念慮が惹起されるという副作用が知られるようになったからだ。しかし、医学界の反対で18歳未満の若者にパキシルは今なお処方され続けている。同じSSRI系のプロザックは米国で処方されており、自殺や殺人事件が多発して、裁判で争われている。
デパス(抗不安薬)の副作用には、興奮、錯乱がリストされている。パキシル(抗うつ剤)には興奮、錯乱、幻覚、せん妄、感情鈍麻、リスパダール(統合失調治療薬)には不安・焦燥、興奮、抑うつ、妄想、幻覚、自殺企図、リタリン(中枢神経興奮剤)には易怒・攻撃的、幻覚、妄想などが列挙されている。1998年、抗うつ剤の売り上げが173億円であったのに、2004年には708億円に伸びている。2000年、統合失調症治療薬の売り上げは372億円であったが、2004年には669億円になっている。抗不安薬・睡眠導入剤の年間売上高は、2004年834億円である。
まだ記憶に生々しい事件は、大阪池田小学校23人殺傷事件である。この事件では8人の小学生が死亡している。犯人はパキシルなどを処方されていた。また、宇治小6年女児刺殺事件の犯人は、学習塾講師で、2003年10月から抗うつ剤デプロメールを処方されており、2005年には妄想や幻覚が現れるようになっていた。本来なら投与を中止されるべきであったのに、12月1日には薬が1日2回に増量され、事件は8日後に起こっている。さらに記憶に新しい事件では、秋田県藤里町で主婦が自分の娘を川に投げ落とし、目と鼻の先の近所の男児を殺害した。診療内科で睡眠薬等を処方されていた。奇異な事件のほとんどすべてに向精神薬がからんでいるのは、単なる偶然なのだろうか。
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)