1970年代、脳細胞は血液の中のブドウ糖しかエネルギーにしないと考えられていた。私は1978年に米国より帰国して、メンタルヘルスと関係のある機能的低血糖症の存在についてことあるごとに話し、記事も書いていた。私は人間の体はガソリン車と思っていたが、実はハイブリッド車だったのだ。ガソリンと電気ならぬ、ブドウ糖とケトン体のハイブリッド!
9月30日に発行された佐藤拓巳著『脳の寿命を延ばす「脳エネルギー」革命―ブドウ糖神話の崩壊とケトン体の奇跡―』を読んだ。メアリー・ニューポート医師がアルツハイマー病にかかっていた夫に、ココナッツオイルを30g/日料理に加えたところ症状が改善したと報告していることはよく知られている。ケトン体は血液脳関門を自由に通過できる。そしてニューロンのミトコンドリアに直接作用する。それも即効的に。認知能力の改善は驚くほどだ。ヒト胎児はケトン体エネルギー代謝60%と分かってきた。以前紹介した宗田哲夫医師の知見によると新生児も母親もケトン体濃度がとても高いのだ。
佐藤拓巳氏の著書に掲載されている母と娘の体験談も圧巻である。娘さんは1歳の誕生日まですこぶる健康だった。そして誕生日の前日に高熱を出して、やがて病院に行く、薬を飲む、の繰り返えしとなり、5歳の時にてんかんと診断された。難治性てんかんは薬が効かない。全世界で2,400万人の患者がいると言われている。娘を助けたい一心であちこちの専門医を訪れ、書籍や論文を読んで、ケトン体に行き着いた。もちろん宗田哲男医師の『ケトン体は人類を救う』も読んだ。
手記を書いたKMさんは誰も辿ったことがない道を彷徨いながら、自らケトン食レシピをまとめたりされている。彼女は、これまでの多くの医師たちがなぜ大切な食事や栄養のことを話してくれなかったかと呟いている。医師になるための医学部の学びで、役に立つのは20%で、80%は学び直さないと役立たない、と言われている。何かあれば患者を怒鳴りつける医師もいるので、医学部での学びは刷新されなければならない。ケトン体は今でも多くの医師によって悪者にされているが、そろそろ学び直そうではないか。ところでNHKが糖質制限食は短命であったと放映したが、エビデンスの低いレベルの研究だった。それより高いレベルの研究は違う結論を出している。(江部康二医師のブログ参照)
柿谷正期(日本選択理論心理学会会長)
JACTPニュースレター90号